Episode_4

“ちがい”と“同じ”を認め合う
多文化共生に資する
教授の想い

インタビューの様子

鈴木 江理子教授

鈴木 江理子教授
Eriko Suzuki

国士舘大学大学院
人文科学研究科
教育学専攻 教授

于佳楠氏(ウジャナン)

于佳楠
(ウジャナン)

中華人民共和国出身
2023年入学
国士舘大学大学院
人文科学研究科 教育学専攻

アンギルマ氏

アンギルマ
 

中華人民共和国
内モンゴル自治区出身
2024年入学
国士舘大学大学院
人文科学研究科 教育学専攻

国際化が進む日本と世界のニーズに応え、外国人留学生を積極的に受け入れる国士舘大学大学院。留学生を研究室へ迎え入れる教授は、どのようなココロザシで指導を実践しているのか。

その答えを探るべく、同大学院の教授と外国人留学生のクロスインタビューを実施。移民政策を専門とする国士舘大学大学院 人文科学研究科 教育学専攻の鈴木江理子教授と、外国人留学生の于佳楠(ウジャナン)氏、アンギルマ氏が対談。上記のテーマについて意見を交わした。

自ら考え、関心をもち、
他者に対して誠実であれ

先生の専門分野を教えてください。

鈴木先生(以下敬称略):専門は社会学で、主に移民政策や労働政策、人口政策などを研究しています。大学では社会学、社会学概論、社会学原論、多文化共生と社会教育、教育社会学などの講義を担当しています。また、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の共同代表理事や認定NPO法人「多文化共生センター東京」の理事として外国人支援の現場でも活動しています。

大学教員を目指された理由を
教えてください。

鈴木:社会学は、個人と個人、個人と集団の関係性に着目し、社会調査等を通じて客観的法則性を見つけていくところに面白みがあります。自分が関心をもつ分野の研究を探求し続けたい、同じような関心をもつ若者に学びの面白さを伝えたい、という思いから教員になりました。

学ぶ姿勢として、学生に望むのは
どのようなことですか?

鈴木:自ら考えること、関心をもつこと、他者に対して誠実であることです。この3点は、健全な多文化共生社会を築く上でも欠かせない要素だと考えています。大学院の面接においても、 “何を学びたいのか”を拙くても自分の言葉で伝えようとするひたむきさ、ごまかしのない真摯な姿勢を重視しています。

インタビューの様子

わからないときは、
わからないと言える学びの場を

留学生への指導で、特に意識されて
いることはありますか?

鈴木:現在、大学院のゼミ生は全員、中国からの留学生です。母語ではない言葉を用いて文化習慣が異なる社会で生活し、学んでいくのは、非常にエネルギーのいること。その大変さに配慮し、どのように説明をすれば、よりよく理解できるかを常に考えながら指導を行っています。ゼミが少人数である特長を生かし、意思疎通を丁寧に行い、理解を確認しつつ進めることが大切です。例えば、日本人なら誰もが知っている「行事」を知らない、見たこともない留学生もいます。そうしたことを踏まえ、自分の当たり前が相手にとっての当たり前ではない、ということを念頭に、講義の際も一気に話を進めるのではなく、認識が共有されているのかを逐一確認し、さらに「わからないときは、わからないと言ってね」と伝えています。

于佳楠氏(以下敬称略):国士舘は教育支援システム「manaba(マナバ)」が導入されているため、学生は個別指導コレクションで先生とつながっています。授業中に気づかなかった疑問があとで膨らんでしまっても、対面の機会を待たずに気軽にアクセスできるので助かっています。

アンギルマ氏(以下敬称略):鈴木先生は丁寧にお話を聞いて、どんな意見にもしっかりと耳を傾けてくださいます。入学を希望して最初に連絡をしたときも、日本語がうまく話せず、勉強についていけるのか、就職できるのかと心配する私に「大丈夫。就職もできますよ」と明るく背中を押していただき、大きな安心感に包まれました。私はもともと人見知りで口数が多い方ではないのですが、先生がドンと構えて受け入れてくださるおかげで、拙いながらもどんどん意見を発信できるようになっています。

鈴木:とても熱心に研究に取り組んでいるアンギルマさんの日本語力向上は、目を見張るものがありますね。成長の速度に、いつも驚かされています。

インタビューの様子

他者を否定せず、
違いを認め合える関係性の構築

学びを通じて、どのようことを
身につけてほしいと
考えていますか?

鈴木:研究室の掲げるテーマは「多文化共生」です。その実現のためにも、他者の意見を否定しない、考え方や感じ方を強制しない、ということを重視しています。まずは、相手のあるがままを受け入れることが大切。そして、意見が異なる場合は、なぜ、そう考えるのだろう?と思いを巡らせ、わからなければ意見を交換してみる。相手を尊重しながら理解を深め、違いを認め合うことが多文化社会への第一歩です。理解が深まれば自ずと「ここは一緒だね」という部分も見えてきて、“違いはあっても同じ人間なんだ”と対等な関係を構築し、社会課題の解決などにも向き合えるようになります。

アンギルマ:授業中、テーマに沿ってディスカッションを行うことがしばしばあるのですが、“他の人と意見が違ってもいいし、正しい日本語を使えなくてもいいから、思ったことをどんどん話しましょう”と先生が言ってくださるため、多種多様な意見が出されます。同じ国籍同士でも個々で感じるもの、見る角度、解釈などが、こんなにも違うのか、と気づかされることが多いですね。

于佳楠:研究室の仲間は、それぞれ考え方や関心の方向が違いますが、互いの話をよく聞き、理解し合える関係です。私の研究内容や興味の対象をわかったうえで意見やアドバイスをくれ、建設的な討論ができるため、とても良い相乗効果が得られます。対話の量も質も高く、どんどん洞察を深められるのが楽しいです。

鈴木:差別や格差の問題に関して留学生とディスカッションを行うと、日本人同士では思いつかないような捉え方や意見に遭遇することがあります。彼/彼女らは、私にとっても異なる視点、考え方を教えてくれる大切な存在です。一方、教員である私の役割は、知識や経験を通じて、できる限り多くの選択肢や可能性を提示することだと思っています。これはどう?これについてはどう思う?と、提示された様々な選択肢に対し、どう感じるのか、どこに興味をかき立てられるのか、自分の心が動くポイントをつかんでもらえたらうれしいですね。

于佳楠:先生は、授業だけでなく、学生が参加できる学術的な催しに声をかけてくださることもあります。学内では得られない貴重な機会を与えていただけるのは、大変ありがたいです。様々な場面、人と接することで視野が広がり、入学時に比べると、ずいぶん大人になりました(笑)

鈴木:于さんは成長とともに研究テーマもガラッと変わりましたね(笑)。研究を進める際は、文献調査だけでなく、アンケートやフィールドワークなど、様々な方法を用いて主体的に探究する力を養ってほしいと思いながら、指導にあたっています。考察を進める中で、やりたいことや方向性が変わっていくのは全然構いません。実際、于さんのように、入学時と修了時では異なるテーマを追っている学生もいます。自分が何に関心があって、何を大切にしたいのか、問い続ける姿勢こそが大事。将来、仕事をしていくうえで、また他者を理解するうえでも重要な基盤になるものだと考えています。

インタビューの様子

研究者として目指したいものを
教えてください。

鈴木:外国人や外国ルーツの日本人が増えている日本で、多様なルーツをもつ人々が尊重し合える真の「多文化共生」が実現できるよう、研究者の立場からバックアップしていきたいですね。具体的には、現状把握?分析、諸外国の状況や事例の発信を続けながら、現場においては、目の前の困っている人たちに対する支援や問題解決を実践すること。持てる力を活かして、公平で公正な多文化社会の実現に向けて私なりに努力を続けていきたいと思います。

アンギルマ:先生は授業以外にも様々な研究や支援活動を行っています。その姿に感銘を受け、私も内モンゴル自治区の人に向けた進学セミナーのサポートなど、学外での支援活動にも挑戦するようになりました。内モンゴル自治区の人やその他の中国人だけでなく、日本社会で暮らすすべての人が楽しく生きていくため、先生を見習って頑張っていきたいです。そう思えるようになったのが、一番の成長かもしれません。

国士舘大学大学院では、留学生の経済負担を軽減する「外国人留学生奨学生制度」、きめ細かなキャリア支援を行う「キャリア形成支援センター」、日本での生活をバックアップする「国際交流センター」や留学生同士が親睦を図れる「留学生会」など、万全のサポート体制を整え、外国人留学生を受け入れている。
異国で学ぶ大変さに配慮した指導を実践したい教授の想いと大学の手厚いサポートが、学生の学ぶ意欲と「多文化共生」の実現を支えている。