国士舘大学法学部現代ビジネス法学科を卒業した髙田陽介さん。指導教員である本山雅弘先生のもとで学び、現在は総合保険代理店の会社で東京支店長として活躍されています。お客様との出会いを大切に、全国を飛び回っている卒業生の髙田さんと本山先生の対談をもとに、国士舘大学法学部での学びと、その先の進路についてご紹介します。
大学時代の学びについて
- 編集部
- 本山先生は、国士舘大学の法学部で、どのようなことを研究されているのですか?
- 本山
- 私の専門は知的財産法で、中でも著作権法を中心に研究しています。インターネット社会の進展で新たに生じるさまざまな著作権法上の課題に取り組むとともに、例えば、音楽教室での演奏行為や、遊園地に置かれたタコの形の滑り台にも著作権が及ぶのかといった、社会的に注目を集める解釈論にも、関心をもって研究しています。
- 編集部
- 先生のゼミで、学生はどのようなことを学んでいるのですか?
- 本山
- ゼミでは、知的財産法の基本的な部分を全般的に教えて、そこから著作権法の分野に踏み込んでいきます。教材の書籍を輪読して、ゼミの中で報告するということをやってもらっています。髙田君のときにもそれをやっていたかな? ちょっと明確には覚えてないんだけど(笑)。
- 髙田
- あ、僕もあまり記憶にないんです(笑)。聞かれたらどうしようと思ってドキドキしてました。
- 本山
- 教員は学生の理解度に合わせて、その都度、教える内容や使う教材を変えていきますから。ただ、あくまでも法学部の知的財産法のゼミなので、専門的で基礎的なことはしっかり教えるべきだと思っています。そこの基本の部分は変わりません。
- 編集部
- 髙田さんはなぜ法学部で学ぼうと思ったのですか? 法律に興味があったのですか?
- 髙田
- いや、まったくもって法律のことは、好きとか嫌いとかありませんでした。ただ、将来公務員になろうと思っていたので、公務員試験に役立つ学部なのかなと、それぐらいの理由ですね。すみません。
- 本山
- いや、学生はそんなもんですよ。明確に法律を学ぶ意義が分かって入ってくる人は少ないでしょう。1年生の授業で、法律の学びって何だと思うと聞くと、だいたい「覚えること」という答えが返ってきます。条文を覚えることが法律の勉強だと思っている。それは全然違います。法律の学びはもっとダイナミックです。世の中で起きているさまざまな紛争を解決する手法を身に付けるために学ぶのです。
- 編集部
- 紛争の解決ですか。 そのことについて、もう少し詳しくお話しいただけますか。
- 本山
- 世の中にはさまざまな利害の対立があり、その対立から紛争に発展します。私の研究でいえば、音楽教室の著作権問題とか、タコの滑り台の意匠問題ですね。XとYが紛争を起こしている場合、最終的に両者が納得できるところに結論を持っていく必要があります。その紛争解決のプロセスを学ぶのが法学部ですね。だから、法学部の学びは社会に直結していて、さまざまな場面で役立ちます。
- 編集部
- 髙田さんは、なぜ本山先生のゼミを選択されたのですか? 知財に関心があったから?
- 髙田
- すみません。まったくもって知財に興味はありませんでした(笑)。ただ、僕は1年生のときからずっと本山先生のゼミなんです。卒業記念の色紙にも書きました。「4年間ご一緒させていただきました」と。僕の場合、ゼミは先生で選んだという感じですね。
- 本山
- 僕は評価が甘そうだったから? 厳しくないっていうのが理由?
- 髙田
- いえいえ、そんなことは言ってないですよ(笑)。
- 編集部
- 髙田さんは、卒業論文は書かれましたか?
- 髙田
- はい、書きました。えーと、サザエさん事件をテーマに書いたと思います。サザエさん事件ってありましたよね、先生。
- 本山
- ありますよ。観光バスのボディに、勝手に「サザエさん」の登場人物の絵を描いちゃったという事件でしょう。ちょっと古い裁判例ですが。
- 髙田
- それです。それで書いたと思います。
- 本山
- ゼミの4年生になると判例研究をやってもらいます。判例集の中から好きなものを選んで報告してもらうんですが、卒業論文はそれをベースに書いてもらっていました。そのときにサザエさん事件を取りあげたのかな?
- 髙田
- はい、たぶん。記憶にあるので。
キャンパスの日常
- 編集部
- 先生から見て、髙田さんはどういう学生さんでしたか?
- 本山
- いや、もう見ての通り、快活で、気さくに声をかけられる人でしたよ。顔付きも明るいし、礼儀正しさもあるし、人を不快な気にさせることのない子だなという印象でした。いわゆるコミュニケーション力に長けていましたね。
- 髙田
- 先生、ありがとうございます。カンペ通りですね(笑)。
- 本山
- いやいや、本当にそう思っていたよ(笑)。
- 編集部
- では、髙田さんから見て、本山先生はどんな先生でしたか?
- 髙田
- 実はここに来る前に、駅でばったり先生にお会いしたんです。数年ぶりなんですけど、先生の方から気さくに声をかけてくださって。僕も「あ、先生」という感じで。話しやすい関係性というんですか。やさしい雰囲気が、昔から変わらないですね。
- 編集部
- こちらの写真は、裁判所で撮ったものですか?
- 本山
- そうです。東京地方裁判所に見学に行ったときのものですね。
- 編集部
- ゼミの授業では、見学にも行かれるんですね。
- 本山
- はい、いろいろ行きました。裁判所とか、著作権を管理している団体などにも見学に行ったことがあります。法律の条文も大切ですけど、紛争を解決する現場も見せたいと思っています。裁判所はアポイントを取らなくても誰でも傍聴できます。そのときは実際に裁判を傍聴したんだっけ?
- 髙田
- いや、傍聴はしてないですね。場所は見学しましたけど。
- 本山
- そうか。適当な事件がなかったのかな?でも写真を見ると、法服を着ているよね。どなたかにレクチャーしてもらったのかな。普通は法服なんか着させてもらえないよ。
- 髙田
- 先生がアポイントを取ったんじゃないですか?
- 本山
- あなたが居たときはそうしたのかな。そういえば事前に裁判所に電話して様子を尋ねていたかもしれない。
- 編集部
- 髙田さんは、大学ではどんな日々を過ごされていたのですか? 部活などはやりましたか?
- 髙田
- 部活はやってないですけど、中学高校と野球をやっていたので、社会人のクラブチームに入って野球をやっていました。授業が午後に集中していたので、午前中はバイトして、午後は大学で勉強して、学校が終わったらジムに行って体を鍛えていました。先ほど公務員志望と申しましたが、本当は消防士になりたかったんです。
- 本山
- ちゃんと授業には出てたの?(笑)
- 髙田
- はい、ちゃんと出てました。3年間で早めに単位を取って、4年のときは卒業論文だけ残して、みたいな感じでした。
- 編集部
- この写真は、ゼミ旅行ですか?
- 本山
- 3年生のゼミで、屋形船に乗ったときの写真ですね。寄せ書きをして、卒業式の日に残していってくれた色紙ですよ。どこか遠方にゼミ旅行のはずだったのですが、どうせ親睦を兼ねるのなら別に旅行じゃなくてもいいかと思って、泊まらずに隅田川の屋形船に乗りました。旅行はいつでも行けるけど、屋形船はそうそう乗る機会もないじゃないですか。
- 髙田
- そう、僕もあれ以来、乗ってないですから(笑)。いい思い出になりました。
卒業後の進路
- 編集部
- 髙田さんは、卒業後はどうされたんですか?
- 髙田
- 先ほど申しましたが、僕は消防士になりたかったんですね。それで就職活動はせずに、公務員試験一本にしぼって勉強していました。一次試験は合格して、二次試験に望みました。二次試験は体力試験と面接でした。体力試験はずっとスポーツ(野球)をやっていたので問題なかったのですが、面接で落ちてしまいました。もう、それがショックで…。一気に目標を失い、目の前が真っ暗になりました。
- 本山
- へぇ、君なら合格しそうだけどね。なんかまずいこと言っちゃったの?
- 髙田
- 言っちゃったんですかねぇ。そんな記憶はないんですけど。
- 本山
- それで、どうしたの? その後。
- 髙田
- 試験に落ちちゃって、就職活動もやっていなかったので、困っちゃって。中途採用で某不動産会社に入社したのですが、営業ノルマに届かず辞めざるを得ない状況となり職を失いました。(今考えるとブラックな会社ですね(笑))
- 本山
- それはたいへんだったね。
- 髙田
- そうなんです。どうしようかと思っているところに知人から声をかけられて、保険の仕事を始めることになりました。保険のことは何も知りませんでしたが、ただ、保険の仕事をしている人って、スーツをバチッと着込んで、カッコいいイメージがあったんですね。消防士もそうですが、僕はカッコよさに憧れるみたいなところがあって。それから12年間、保険の業界で仕事をさせていただいています。
- 編集部
- 今はどちらにお勤めですか?
- 髙田
- 東京にある株式会社マル?インシュランスという保険代理店で素晴らしい仲間と一緒に働かせていただいております。
- 編集部
- ずっとこちらの会社なんですか?
- 髙田
- いえ、損害保険会社に3年ほど勤めてからその経験を生かして保険代理店として働き始めました。ところが5年前に今の会社の社長と出会う機会がありまして。実はこの会社、本社が徳島なんですね。なんで徳島の人がわざわざ東京にと思ったら、お客様に呼ばれて来たと言うんです。東京のお客様がわざわざ徳島からその人を呼び寄せて、契約する?それってどういうこと?って思いました。
- 編集部
- なるほど。保険は東京でも入れますからね。
- 髙田
- そうなんです。保険はどこでも入れます。でも、「その人じゃなきゃダメ」みたいな明確な理由があるから、徳島から呼ばれるんですね。社長にお会いして、「ああ、自分もこの人みたいに全国各地を飛び回る営業マンになりたい」と思って、それで「そばで勉強させてください」と言って会社に入れていただきました。今は東京支店の支店長をやらせていただき、支店の運営をすべてやっています。
- 編集部
- 今の仕事をやっていて、おもしろいと思うことはありますか?
- 髙田
- もう、人のご紹介だけで、全国各地を飛び回れるのがおもしろくてしょうがないです。北海道から沖縄まで津々浦々、お客様がいらっしゃいますから。地方の文化にも触れられますし、人と会うのも楽しいです。色紙にも書きましたけど、僕の好きな言葉は「一期一会」なんです。
- 本山
- 人を愛し、人に愛されるというところがあるからね、髙田くんには。天職だよね。
- 編集部
- 逆に、たいへんなことってありますか。仕事をやっていて。
- 髙田
- いや、むしろたいへんなことの方が多いと思います。99%はたいへんですよ。でも、1%の楽しさが、それを上回っちゃうんですね。その1%というのがまさに人とのつながりで、いろんなご縁があって。来週も広島のお客様のところに行きますが、なぜ東京にいる僕が広島の方とつながれるかというと、やはりご紹介者がいるんです。「あなたじゃなきゃいけない」って。そんなこと言われたら、地球の裏側まで行っちゃいますよね(笑)。
仕事に生きる学び
- 本山
- 髙田くんは、大学の学びのどこがよかったと思う? 高校を出てすぐに社会に出た場合と比べて。
- 髙田
- 高卒のことは、僕は経験していないので分かりませんが、大学の4年間って、すごく大事な時期だと思います。大学生って、子どもでもないけれど、大人でもない。心と体が成長する過程で、ワンクッション置ける時期があるというのは、いいことだと思います。社会のことを少しずつ知りながら、少しずつ勉強しながら、ゆっくり大人になれることが許されている時間だと思います。両親に感謝ですね。
- 本山
- 法学部の学びはどう? その後の人生に役立ったと思うことはあるかな。法律の知識とか、考え方とか。
- 髙田
- そうですね。今の保険の仕事って、法律が絡んでくるところがあるんですよ。保険金の支払いは法律にのっとって行われますから。私は保険会社ではなく、あくまでも保険の代理店なので支払いはしないんですが、法的根拠を保険会社に示すと、支払いがスムーズになりますね。
- 本山
- そうだよね。さっきもいったけど、法律は利害の対立する両当事者の利害調整の道具だから、あなたのような代理店の立場はまさにそうだよね。保険会社とお客さんの間に入って、そこをうまく調整するわけでしょう。
- 髙田
- そうです。そう考えると、法学部の学びは生きていますね。確かに。
- 本山
- さまざまな法律の分野はありますが、共通しているのは利害対立ですから。対立する当事者に納得するように解決の道筋を示すというのが法律学の役割で、社会現象としてそれは裁判ですけど。でも、裁判に限らず民間の会社でも利害の対立はあって、担当者はその問題に日々直面しているわけです。そのときに相手の立場も想像力豊かに考えて、こちらの主張も踏まえた上で、落とし所を見いだすこと。それはまさに法的な発想、法的な思考ですよね。それを法学部の学生は、ゼミを通じて知らず知らずのうちに学んでいるんです。
- 髙田
- 今の話を聞いていて思いだしました。そういう授業ありましたね。AさんとBさんが事故を起こして、AさんとBさんの言い分が違う中で、どう解決案を判例に基づいて導いていくか、みたいな。
- 本山
- 思い出した?(笑)。そうなんだよ、具体的な法律の条文なんて、すべて覚えている人はいないから。条文は法律を開けばそこに書いてあるのであって、それを覚えているだけでは意味がない。大切なのは、その条文を使ってどうすれば利害の対立を調整できるかなんです。そのための思考を身に付るところが法学部です。大学にいるときは分からないかもしれないけれど、おそらく4年間の授業を通じて、こういう発想や思考がね、無意識の底に形成されるのだと思います。それこそが法学部で得られる力であって、だから法学部卒業の人は社会に出て重宝されるんです。社会は紛争に満ちあふれているから。
- 髙田
- そうですね。まさに代理店という立場で、お客様と保険会社の間に立って、どう円満にお客様の意向を形にできるかということに法律が絡んできます。そういう意味では確かに、今の仕事に役に立っているなと思います。弁護士の先生とタイアップしてやるケースもあるので。
- 本山
- 弁護士さんとの会話も、スムーズに行くでしょう。法学部を出ていると。
- 髙田
- そうですね。
- 本山
- 学生のうちは、つまり社会に出る前の人間は、なかなか紛争の現場に身を置くことがないんですよ。まず契約の当事者になることは少ないですから。紛争とは何か、利害の対立とは何かということを知る機会がないから実感できないんです。でも、法学部の学生は、4年間の124単位を通じて様々な教養にも触れ、裁判例を読んで過去の紛争解決のシミュレーションなどもやり、そういう発想や思考を身に付けて社会に出ていきます。「法学部がつぶしがきく」というのは、そういう意味だと思いますよ。
- 髙田
- 法学部を出て、本当によかったと思います(笑)。
- 本山
- そうでしょう。これからも仕事、がんばってね。
- 髙田
- はい。がんばります。
- 編集部
- お二人のお話をうかがって、法学部の学びのイメージが変わりました。今日はありがとうございました。
本山 雅弘(MOTOYAMA Masahiro)
国士舘大学 法学部 法律学科教授
●博士(法学)
●専門/知的財産法
髙田 陽介(TAKADA Yosuke)
2009年度 国士舘大学法学部現代ビジネス法学科卒業
株式会社 マル?インシュランス 東京支店長
掲載情報は、2022年のものです。