編集部:国士舘大学の政経学部で、学生は何を学び、どのような力を身に付けていくのですか?
国士舘大学の政経学部は、「政治行政学科」と「経済学科」の2つの学科から構成されています。人間性を尊重し、政治行政と経済、それぞれの専門分野での知識と学力を身に付けながら、多様化する現代社会の中で中心的な役割を担える人材を育成していきます。
政経学部は、今年創設60周年を迎えました。国士舘大学には「誠意?勤労?見識?気魄」という四徳目を涵養し、「国を思い世のため、人のために尽くせる人材「国士」の養成」という建学の精神があります。政経学部ではこの精神にのっとり、実社会で役立つ人材を輩出していきたいと考えています。そのために、政治行政、経済の各分野の専門的な知識を身に付けることはもちろんですが、国や社会のあるべき姿や課題を論理的に考え、判断できる力を身に付け、自分の考えを他者に分かりやすく説明できる表現力や人々と協働できる力も培っていきます。
編集部:そのような人間としての力を身に付けるために、どのような教育を行っているのでしょうか?
政経学部では少人数制の学びで、一人ひとりの学生に目を配りながら、きめ細かい教育を行っています。たとえば、1年次から4年次まで行われているゼミナールはその典型です。入学したばかりの学生は、まだ友だちもおらず、どうしても孤立しがちです。そのため1年次には「フレッシュマン?ゼミナール」という少人数のゼミがあり、大学生活の送り方、親しい人間関係の構築、悩み事や進路についての話し合いなど、有意義な大学生活を送れるように手助けをしていきます。
また、フレッシュマン?ゼミナールでは同時に、その後の専門教育で必要となる基礎的な素養も身に付けていきます。図書館に行って資料の探し方を学んだり、人前での発表の仕方とか、レジュメやレポートの書き方なども学んでいきます。秋期になると外部から講師を招いて、将来の就職につながるキャリア教育も行います。政経学部の教員全員が力を合わせて、学生一人ひとりが4年間の充実した大学生活が送れるように、バックアップしていきます。
編集部:2年生になると、専門的な学びに入っていくのですか?
2年生では「基礎ゼミナール」があり、専門的な学びの準備段階に入ります。それと同時に継続して基礎的な学びも行っていきます。レポートや論文の書き方、物事を分かりやすく説明する方法や、人前に出ての発表の仕方などですね。本格的な専門の学びは3年次から始まりますが、そのために必要な基礎力を2年生のうちにしっかり培っていきます。こういった力は、将来社会に出たときにも必ず役立ちます。いきなり高度な学びを始めるのではなく、段階を踏んで少しずつステップアップしていくので、専門分野の知識がまったくなくても安心して学べる体制を整えています。
編集部:政経学部は公務員志望の学生が多いと伺いました。公務員を目指すためのサポートなどはあるのでしょうか?
そうですね。地方の一般行政職をはじめ、警察官や消防官など、公務員を目指す学生が多いのも、本学部の特徴のひとつです。そのために「公務員相談室」というものを設置して、学生がいつでも気軽に相談できる体制を整えています。毎週4日間、朝10時から夕方5時まで、政治行政学科の先生が待機しているので、いつでも気軽に相談できます。
1、2年生は、進路の相談をする場合が多いようですね。たとえば警察官になるにしても、語学ができると有利になるので、韓国語や中国語の検定を受けたらどうか、といったアドバイスをすることもあります。3、4年生になると、もっと具体的に、公務員採用試験で行われる面接の練習をしたり、小論文の書き方を指導したりしています。
この他にも、予備校の先生を招いて試験対策を行う「公務員試験対策入門講座」や、合格した先輩の話が聞ける「キャリアガイダンス」などもあり、さまざまな角度から学生の夢を応援していきます。
編集部:国士舘大学政経学部「創設60周年記念講演会」が開催されたと伺いました。これはどのようなものですか?
国士舘大学の政経学部は、昭和36(1961)年5月27日に創設されました。ちょうどその60周年にあたる令和3(2021)年5月27日に、記念講演会を開催いたしました。コロナ禍での開催となったため、会場とオンラインを併用して行いましたが、無事に開くことができてほっとしています。
はじめに理事長と学長、そして私からご挨拶をさせていただきました。続いて、講演会の第一部では、クオンタムリープ株式会社代表取締役の出井伸之氏と、サッカー解説者の山本昌邦氏に登場いただき、記念講演をしていただきました。
出井氏はご存じのようにソニーの社長を務められた方で、実はご尊父が国士舘大学政経学部の教員をなさっておられたのですね。そのご縁で、本学の大講堂でお話しいただき、その講演をビデオに収録し、オンラインで配信いたしました。また、山本昌邦氏は政経学部の卒業生で、サッカーの指導者として活躍され、ワールドカップ日本代表のコーチを務め、オリンピック日本代表の監督にも就任されています。
第二部は、政経学部を卒業して各界で活躍されているOBをお招きし、オンライン上で対談をしていただきました。学生時代の貴重なお話や、懐かしいエピソードなどをお伺いすることができました。政経学部創設から60周年、原点の想いに立ち返れるいい機会になったと思います。
編集部:先生のご専門は、財政学ですよね。学部の授業では、どのようなことを教えてらっしゃるのですか?
私が学部で担当しているのは「財政学」の授業と、3年?4年生のゼミナールです。「財政学」では、主に国や地方自治体が行っている経済活動の話を中心に教えています。
たとえば、いきなり国の財政機能には「資源分配機能」と「所得再分配機能」と「経済の安定化機能」の3つがありますといっても、理解するのは難しいでしょう。ですから、学生には身近な例を取り上げて、できるだけ分かりやすいところから話をしています。
例えば、税金のことですね。皆さんは凡そだいたい「税金」というものをネガティブにとらえています。税は「取られるもの」というイメージがあるんですね。でも、私がいつも学生に言っているのは、「取られる」ではなく「納める」というイメージを持ってほしいということです。いろんなサービスを国や地方自治体は住民に提供しています。その便益を受けた人は当然、その対価を支払う必要があります。公共のサービスは無償で当たり前と思っている人が多いけれど、それは間違いです。民間だったらありえないでしょう。遊園地やプール、映画館にしても無料では使えませんよね。ところが、道路や橋などの公共の物は、無料で使えて当たり前と思っている。道路も橋も、作ったり整備したりするのにはお金がかかり、その費用は私たちが納める税金で大半が賄われているのです。「お金は天から降ってくるものではない」ということを知っておいてほしいと思います。
編集部:ゼミでも、このような税金の話は学生にしているのですか?
そうですね。ゼミでも身近なところから学生に話しをています。ゼミ生は、「所得再分配」の必要性は認めています。ただ累進税率や資産課税、生活保護、失業保険などの用語やイメージはつかめていても、具体的な内容や制度の必要性については、十分に理解できてはいません。これらをゼミ生間の討論によって理解を深めていくようにしています。
他にも病気やケガをして病院にかかったとき、医療費が3割負担で済みますね。あれは誰のおかげですか、といった話から入っていきます。中にはアルバイトをやっている学生もいるので、そういう学生には「給与明細をもらったとき、所得税や社会保険料がどれくらい引かれているか見るように」と言っています。引かれている金額が分かると、自分ごととして意識しはじめますね。1、2年生のうちは実感がないのですが、3年生ぐらいになると徐々に変わってきて、4年生になると就職活動をやっているので、金銭感覚はよりリアルになってきます。税の話は当事者にならないと真剣に考えませんが、そうなる前に自分で考えを学ぼうとすることが大切であり、そのためにも幼少期からの租税教育が必要です。
編集部:ゼミでは卒業論文を書くのですか?
卒業論文は必修ではありませんが、私個人としては、ぜひ書いてほしいと思っています。一つの専門的な研究成果をあげて卒業することに大学生活の大きな意義があると思います。卒業論文で取り上げるテーマは、本人の希望に合わせて教員と相談しながら決めていきます。自分が就職する企業の分野について研究する学生が多いですね。昨年も、自動車関連の企業に内定が決まった学生が、自動車税のことについて調べて詳しく書いたり、地方公務員になった学生は自治体の財政分析を研究テーマに取り組んでいました。もちろんそれとは関係なく、ゴミ問題や環境問題などを取り上げて書くゼミ生もいます。
編集部:先生は、財政学の分野でどのようなことを研究なさってきたのですか?
私は、大学は経営学部を卒業しましたが、ゼミの先生がイタリア財政学の専門家でした。そこで財政を学んでいるうちに、関心が深まりそのまま修士課程に進むことにしました。そのときに研究していたのは、「ゼロベース予算」というものです。
国や地方自治体の財政は、基本的に「増分予算方式」というものなんですね。これは、前年度の消化実績を参考にして、今年度の予算を立てるというやり方で、これですとどうしても無駄が出やすくなります。予算を使い切らないと翌年カットされる恐れがあるからです。
そこで「ゼロベース予算」という考え方が生まれてきました。P.A.ピアーが提唱した考えで アメリカのカーター政権でも導入された政策です。これは前年実績は考慮せずに、全ての項目をゼロベースでと考え、そこに予算を付けていくというやり方です。これだと無駄が出にくいんですね。修士論文は、この「ゼロベース予算」をテーマにして書き上げました。当時、この分野の研究をしている研究者はほとんどいなかったので、論文はすんなり通りました(笑)。
編集部:最後にお伺いしますが、4年間の政経学部の学びを通して、どのような人間を育てたいとお考えですか?
建学の精神を基に、グローバルな知見を広めることにより未来を切り拓いていく。そして自ら考え行動することのできるシティズンとなるためには1年次にはどういう教育をすべきか、2年次には何をやるべきかということを常に意識しておくことが重要です。
巾広い視野をもち論理的に、人前で自分の意見が言えるようになることは、決して簡単なことではありません。今の学生を見ていると、どちらかというと自分に自信が持てない人が多いように感じます。高校までの学校生活で、人前で話す機会が少なかった、あるいは他人から否定されることが多くあったのかもしれません。自分に自信がないから、「こんなことを言っていいのかな?」と不安になってしまうようです。
政経学部では1年次から、少人数制の学びの中で、一人ひとりの学生が自信を持てるような形で指導していきます。そのために、教員は常に自分が受け持っている学生のことをよく見て、ゼミの中で孤立していないか、ちゃんとコミュニケーションが取れているかなど、細かいことに気を配っています。政経学部の教員全員が力を合わせて、一人ひとりの学生を丁寧に指導し、社会人として正々堂々と渡り合っていける人間を育成していきたいと思っています。
岩元浩一(IWAMOTO Koichi)教授プロフィール
●博士(経済学)/東海大学 経済学研究科 博士課程 単位取得満期退学
●専門/財政学、地方財政学