編集部:国士舘大学の経営学部には、どんな学びの特徴がありますか?
経営学部の学びの特徴は4つあると私は思っています。一つ目は少人数クラスによるきめ細かな教育です。1年次の春期に「フレッシュマンゼミナール」、秋期に「ゼミナール入門」という授業があり、35名程度のクラスで行います。英語の授業も含めると週に2回は同じ顔ぶれになるので、友だちもできやすいし、大学の学びに慣れることができます。
二つ目は、資格取得です。大学4年間で、簿記検定や経営学検定、TOEICの3つの資格取得を強力にバックアップする体制を整えています。また、授業を履修し資格を取れば一定の単位が取得できるようになっています。
三つ目は、実践的な職業教育です。「現代の産業と企業」という授業では、大企業の経営者や管理職を講師に招き、講義をしていただいています。また、「優良中堅?中小企業研究」という授業では、各業界のナンバーワン中堅?中小企業の経営者を招き、話していただきます。
そして、最後がゼミですね。私は大学の価値はゼミにあると思っています。ここで生涯続く友を得たり、先輩とのつながりができたりします。そうなると就職活動でも情報交換がしやすく、有利になります。ゼミのより深い学びを通じて、よき友を得て、よい大学生活を送ってほしいと思っています。以上の4つが、経営学部の特徴ではないかと思っています。
編集部:先生は経営学部で、どのような授業を担当なさっていますか?
私が担当しているのは、「日本経営史」「外国経営史」といった授業で、あとは3?4年生のゼミを受け持っています。経営史の授業は、日本国内と外国の違いはありますが、企業家や産業の歴史について話しています。たとえば、松下幸之助とはどんな人物だったか、自動車産業はどのように発展してきたのかとか、そういうことを実際の事例を示しながら紹介しています。
後は、組織としての企業の発展の歴史ですね。みんな初めから大企業だったわけではなく、最初はリーダーが一人いて、「今日はみんなで車を作ろう」「作った車を売りに行こう」という規模だったんです。そのビジネスが大きくなるにつれ、購買部とか開発部とか、製造部、販売部といった部署ができ、企業として発展していきます。どのような形で企業という組織が発展していくか、そういうことも経営史の授業で紹介しています。
編集部:ゼミではどのようなことを学生は学んでいるのでしょうか?
3年生と4年生のゼミがありますが、3年生の場合は主に課題図書を輪読しています。たとえば本田宗一郎などの日本の企業家の本ですと20章ぐらいあるので、一人に一章を割り当てて、順番で発表してもらっています。基本的にやってもらうのは、本の内容を要約して報告することです。このとき、参加するゼミ生にひとつだけお願いしていることがあります。それは報告の内容を聞いたら、それに対して必ず質問をするということ。とにかく人の話を聞いたら何か質問する。そういう習慣を付けてもらいたいのです。就職活動のときにこれは絶対に役に立ちます。
4年生になると卒業論文の作成に取りかかります。テーマは自由で、経営に関することだったら何でもいいと言っています。私の専門の経営史を取り上げる人は少ないですね(笑)。論文作成の時期は就職活動と重なるので、志望する企業や業界についての論文を書く学生が多いです。企業から内定をもらって就職活動が終わったら、一気に書き上げるという感じです。
編集部:池元ゼミにはモットーがあるとうかがいました。それはどのような言葉ですか?
はい、うちのゼミは「よく勉強し、よく遊び、よい会社に就職しましょう」ということをモットーに掲げています。3分の1は勉強、残りの3分の1は遊びで、3分の1が就職活動というイメージですね。
5月になったらみんなで無人島に行ってバーベキューをして、7月になったら東京湾納涼船クルージング、ビアガーデン、9月になったらゼミ合宿で沖縄に行きます。そして、11月には国士舘大学の学園祭である「楓門祭」があるので、それに参加します。12月にゼミ選考面接、2月は新ゼミ生歓迎会をします。とにかくゼミ仲間でよく遊びますね。この他にも、学生がボウリング大会や球技大会などをやろうと企画して、みんなでわいわいやっています。コロナ禍では思うように行かないこともありますが、感染対策を万全にしながら、できる限りの範囲内で楽しむようにしています。
編集部:「よく勉強し」は分かりますが、なぜ「よく遊び」が大切なのでしょうか?
そうですね。しっかり学んだ上で、もっと楽しんでみたらと提案しているのは、就職のことを考えてのことです。企業としても、たくさん勉強して、たくさん遊んで、充実した学生生活を過ごした人間を採用したいはずです。好きなことに夢中になって、たくさん学んで、友だちをいっぱい作って、充実した毎日を送れば、それだけ人間の幅も広がるし、魅力も増すと思います。だから、勉強だけではなく、「ちょっと遊んでみたら」と提案しているわけです。学生にはそのときそのときを充実させ、一生懸命生きてほしい。そのための遊びの提案です。もちろん、「遊びたくない」という人もいるでしょう。そういう人の意志は尊重されるべきなので、こういったゼミの催しは自由参加になっています。
編集部:先生ご自身は、どのような大学生活を過ごされたのですか?
実は私、大学の受験に二度も失敗しているんですよ。それで親が心配して、専門学校に行ってみたらと勧めてくれました。そこでコンピュータ制御の勉強をし、そのまま専門学校の親会社だったIT企業に就職しました。
2、3年、その会社でプログラマーをやっていたのですが、途中でシステムエンジニアになりたくなって、そのためには経営の勉強が必要なんですね。それで当時は大学に二部(夜間)があったので、そこに通って働きながら経営学の勉強を始めました。大学の教員としてはかなり異色の経歴の持ち主なんです(笑)。そのときのゼミの先生が「遊ぶこと」を大切にする人で、おかげで大学生活は充実したものになりました。私が学生に「よく遊びましょう」といっているのは、多分にその影響があるのだと思います。
編集部:その後、大学院に行かれるんですよね。そこではどんな研究をなさったのですか?
はい。ゼミの先生が移られた大学に私も付いていって、大学院に通うことにしました。そこでは「経済史」、「経営史」を専門に選び、コンピュータ産業史を研究しました。特に「汎用コンピュータ」と呼ばれる大型コンピュータの歴史ですね。
当時、大型の汎用コンピュータといえばIBMが一番で、「ビッグブルー」とか「巨人」と呼ばれていました。そこに日本のメーカーが戦いを挑んだわけです。ヨーロッパ?アメリカでIBMに対抗した会社は、ことごとく破れ、潰れていきましたが、日本のメーカーだけは汎用コンピュータの分野で生き残れたんです。「象と蚊の戦い」などと呼ばれた圧倒的に不利な状況で、なぜ日本の企業は互角に戦えたのかといったことを研究していました。
編集部:日本のメーカーはなぜ生き残れたのですか? すごく興味があります。
それは、日本のメーカーが製品をユーザーと一緒に作り上げるということをやっていったからです。コンピュータだけではなく、たとえば石油のプラントなどでも、アメリカの会社は「こういうプラントがありますよ、買いませんか」と一方的に提示してきます。これに対して日本の会社は、現地に行って顧客の細かいニーズを聞き、製品に反映させながら一緒に作り上げるということをやっていきます。だから、性能だけ見ればIBMの方が優れているのだけれど、顧客にベストマッチのものとなると、日本製の方に分があるのです。他にも、日本の会社は終身雇用制で長期雇用しているので、クライアントとの人的なつながりが作りやすいとか、そういうさまざまな理由によってIBMと渡り合うことができました。大学院ではそのへんのことを主に調べていました。
編集部:先生のゼミでは、就職活動をかなり重視されていますね。なぜでしょうか?
これも私の経験から出ていることなんです。私のいた会社は大企業から仕事をもらって、下請けの小さな会社に出すということもやっていました。だから、私自身は大きい会社も小さい会社も両方見てきました。この両者を比べると、社員の待遇にびっくりするほどの開きがあるんですね。たぶん多くの学生は知らないと思います。入る会社によって境遇がそれほど違うということを。学生はアルバイトの延長線上で就職を考えていたり、給料が千円でも高い方がいいだろうと考えていたりするんです。でも、実際はそうではない。だから、入る前によくよく親?先輩?友達?キャリア形成支援センター?人事などの話を聞いて、自分の就活の軸を考えながら少しでも合う会社に行ってほしいと思っています。
学生がどこを受ければいいか分からない場合は、私としてはとりあえず一部上場企業を見て、そこを基準に考えればとアドバイスしています。もちろん、やりたいことが明確にあって、大きな会社を蹴って小さな番組制作会社に行くという学生もいます。それはそれでいいと思います。自分自身がよく考えてだした答えが自分にとっての「正解」だからです。
編集部:池元ゼミでは、2年生の入ゼミ希望者を、3年生のゼミ生が面接して選ぶそうですね。これにはどのような意味があるのですか?
これも就職活動に関係していますが、企業の面接試験を受ける前に、まず自分が面接官になってみることを体験してもらいたいと思ってやっています。うちのゼミでは2年生に対する説明会も3年生が担当しますが、熱心な2年生は説明会後に必ず質問にやってきます。そういう人はやっぱり3年生の印象に残っていて、いざ選考する段階になったとき、「この学生は入れてあげたいな」と思うようになるんです。
企業の就職活動でも同じことが起こります。やっぱり熱心に質問に来た学生は、人事の記憶に残り、消極的な学生と比べると有利になります。一度自分で面接官をやってみると、そういうことが肌で実感できるんです。去年は新型コロナウィルスの関係で、多くの企業がオンライン面接を採用したので、私たちのゼミ面接もオンラインで実施しました。
編集部:最後になりますが、先生は4年間の学びを通して、どんな人間を育成しようとお考えですか?
そうですね。私個人としては、仕組みを考えられる人間になってほしいと思っています。世の中にはブラックといわれる企業があるでしょう。あれは利益を上げる仕組みが不明解なんです。どうやって利益を出しているか、ビジネスモデルがよく分からない。そこを見極められないからブラック企業に就職してしまうんです。だから、物事の裏側にある仕組みやシステムを考えられる人になってほしいと思います。人の話を鵜呑みにするのではなく、自分から考えて結論を出せる人ですね。
あと、新入生によく言うのは、将来の目標から「今」を考えてほしいということです。大学は決してゴールではありません。長く続く人生の通過点であり、勝負はこれからです。そして、人生の勝負の一つが就職であると私は考えています。そこに焦点を当てて、大学生活を過ごしてほしいと思います。
また、これから大学受験をする高校生の皆さんに言いたいのは、「今を充実させてください」ということ。今を充実させれば、次もきっと充実します。志望する大学や会社に入っても、それで人生が終わるわけではありません。その先もずっと続いていきます。万一受験に失敗して希望校に行けなくても、その場所で今を充実させていれば必ずその先があります。そして、今を充実させるための手段が「よく遊び、よく勉強する」なのかもしれません。目標を定めて、よく遊び、よく勉強する。そうすればきっと志望する大学に入れるし、入れなかったとしても、今を充実させていれば、次のステップがあります。どうか皆さん、「今」を大切に過ごしてください。最後に、もし、困ったら「誠実」に対応して下さい。時間はかかるかもしれませんが、誠実に対応することにより問題は必ず解決します。
池元 有一(IKEMOTO Yuichi)教授プロフィール
●修士(経済史)/東京大学 大学院経済学研究科 単位取得退学
●専門/経済史?経営史