編集部: 国士舘大学の理工学部にはどんな学びの特徴があるのですか?
国士舘大学の理工学部は、今から10年前の2007年、工学部の改組にともなって新設されました。それまでの「1学部4学科」での学科の垣根をとり、「1学科6学系」という教育システムを取り入れたのです。理工学というのは広大な教育分野です。最初から「これを学びたい」と決まっている学生もいますが、基礎を学んでいくうちにやりたいことが決まってくる学生もいます。そのため本学では、「機械工学系」「電子情報学系」「建築学系」「まちづくり学系」「健康医工学系」「基礎理学系」の6学系を有機的に結びつけ、一人ひとりが自分の将来を考えて履修計画に沿って学べる内容となっています。
編集部: 電子情報学系では、どのようなことを学ぶのでしょうか。
電子情報学系では、情報マルチメディアから未来のエネルギーまで、とにかく幅広く学ぶことができます。大きく分けると「環境エネルギー」「コンピュータ」「インターネット」「ソフトウェア」の4つの分野がありますが、どれも今日の私たちの生活に欠かせないものばかりです。
この分野の技術は日進月歩です。次々と開発される新技術や、刻々と移り変わるニーズに柔軟に対応していかなければなりません。だから、学びの間口を狭めずに、幅広くいろんなことに興味を持ってもらい、どんな状況にも柔軟に対応できる技術者としての土台づくりに私たちは重点を置いています。
そのために本学ではいろんな最先端の機器や設備を揃えています。たとえば3年前に新設された「マルチメディアスタジオ」もそのひとつですね。機材はカメラをはじめ、録音、ミキシング、編集機など、プロが使うレベルのハイスペックなものを揃えています。ここで学生が模擬ニュースを読み上げ、それを撮影?録音し、テロップを付け、編集して、実際に番組づくりをする授業もやっています。また、月1回、スタジオで撮影?編集したものを「youtube」でネット配信するということもやっています。都内の大学では最大級といっていい、本格的なスタジオなんですよ。
編集部: 先生はどのような授業を担当なさっているのですか?
私が担当しているのは、「電気電子計測」と「電気数学」、それから2年生と3年生の実験です。2年生向けに私が担当している実験は、単相電力計の使い方、電源回路の仕組みなどとかですね。2年生はまだ配線がよく分かっていないので、配線を学びながら、最後は扇風機をつないで、どのくらいの消費電力があるのかを計測します。実験は全学生が必修で、毎週レポートの提出があるので、高校生のときと比べると少し大変かもしれませんが、みんなよくやっています。
「電気数学」もパソコンでエクセルを使うので、こちらも半分演習みたいなものです。この授業では微分積分やグラフの書き方などを習います。微積分、複素数もエクセルでやると自動的にできてしまうけど、それが正しいかどうかを自分で計算して確認してもらっています。
編集部: 演習系の授業が多いようですが、理系の基礎ができていないと難しくありませんか?
そこはしっかり手当をしています。国士舘大学の理工学部の特長のひとつは、少人数制教育なんですね。学生10人に対して教員が1人と大学院生が1人付くので、実質2名体制で10人を教えています。1年次に微積分や数Ⅱ数Ⅲ、オームの法則や2進数など、理系の基礎的なことを丁寧に教えていきます。そして、基礎がしっかりできてから、2年次以降の専門的な学びに入っていきます。
最近はコンピュータのプログラミングをやりたいといって入ってくる学生が増えていますね。ただ、アプリづくりに憧れていたような学生が、実際に学んでいくうちに、やっぱり電気がやりたいといって、進路を変えるケースもあります。もちろんその逆も。うちのカリキュラムの特長は、幅広く学んで、興味に合わせて自由に進路変更ができることですね。少人数でしっかり学ぶうちに、自分のやりたいことが見つかり、夢に向かって専門的に学ぶことができるようになるのです。
編集部: ゼミもご担当されていますね。ゼミではどのようなことを学ぶのですか?
はい、私は3年生と4年生のゼミを受け持っています。3年生のゼミでは、いろんな機材に触れたり、企業の研究所に見学に行ったり、また新しい素子とかセンサーとかを持ってきて、「こんなものもあるよ」と紹介したりしています。研究の材料になりそうなものをこちらから提供して、学生を刺激して、そこからさまざまなアイディアが生まれてきます。たとえば、「圧電素子」というのがあって、叩くと電流が流れてLEDが光るんですが、学生に見せると「これで床発電の研究をやってみようかな」となるんですね。毎週なんらかのものを紹介しています。そこで興味を持ったら、あとは学生自身に調べてもらうようにしています。3年生のゼミで研究の方向性が決まったら、4年生になってから卒業研究に取りかかります。
ゼミで私が心がけているのは、ゼミの仲間と、様々なアイディアを出し、今は何をすべきか、何が必要か、どうしたらもっとワクワクするか等をディスカッションし、最後は自分で考え、自分の力でまとめて発表してもらうようにすること。今年は3年生のゼミが7人、4年生の卒研生が7人で、アットホームな雰囲気の中で、非常にいい学びができていると思います。
編集部: 毎年「NHK放送技術研究所」を見学に行くのも、 卒業研究の題材を見つけるためですか?
そうですね、3年生のゼミでは毎年5月に「NHK放送技術研究所」を見学して、10月には幕張メッセで開かれる「CEATEC JAPAN」を見に行くことにしています。NHK技研は一般公開日に合わせて見学に行きます。ここでは最先端の技術や機器が紹介されていて、いろんな体験もできます。たとえばリアルタイムの手話とか、触れないものを触った感じにする技術とか、視覚障害者のために地震の地図情報を手で触って見られるようにする技術とか、盛りだくさんですね。見学から戻ったら、学生には自分で何に興味を持ったかをプレゼンしてもらいます。パワーポイントの使い方とか、人前での話し方とか、いい練習になるんです。ゼミでは、私自身はなるべく話さずに、学生に話してもらっています。「プレゼンの練習ができるから」といって、私のゼミを選んでくれる学生もいるぐらいです。
あとは、電子情報学系の特長として、年に1回研修旅行に行っています。これは希望者が対象ですが、教員のコネクションを活かして、普段見られないような企業の研究所などを見学させてもらっています。これも学生にとってはいい勉強になりますね。毎年9月の上旬、夏休みの終わる前に行っています。
編集部: 4年生になると、各自が見つけた題材で卒業研究をしていくのですね。
そうですね。それぞれが卒研にとりかかりますが、そのなかで最も完成度が高い研究は、学会で発表してもらうことにしています。去年、私が学生と一緒にやったのは、「アイトラッカー」という視線の動きを計測する機械を応用した研究です。アイトラッカーを使うと、「文章のどのへんを見ている」とか、「どこを長く見ている」とか、人の視線の動きが分かるんですね。これを子どもの勉強に活かせないかと考えて、「視線情報を用いた学習プログラム」というテーマで研究しました。被験者に試験問題を解いてもらって、そのときの視線の動きを調べて、学習に役立つプログラムを作りました。9月に電気学会のポスターセッションで発表したのですが、いろんな先生からのコメントがいただけて、学生にとってはいい勉強になりました。
他にもユニークな卒研がいっぱいありますよ。ある学生は、レゴブロックでロボットを作りました。1年生のときに「ものづくり基礎」という授業があって、そこでレゴを使ったロボット製作をやります。センサーを付けて、手を叩くと前進して、ボールを取って帰ってくるというものですが、それで卒研をやりたいと言ってきたんです。学生が頑張ったのは、ロボットの下にカラーセンサーを組み込んで、赤い紙の上を通過すると読み取って「RED」と英語で発音できるようにしたこと。これって、子どもの教育玩具になりますよね。さらに、その学生はプログラムをして、スマホからロボットを操作できるようにしていました。
編集部: 先生はどのような研究をご専門になさっているのですか?
私の専門は「電気」で、物性を調べたりする研究をやっています。最近はアルミニウムとボロンと鉄を混ぜ結晶を作り、エックス線で解析したり電気抵抗を調べたりしています。もともと結晶構造に興味があって、結晶がどういう配列になっているか、その中を見てみたいと思って、研究していました。最初の頃は「アモルファス?テルル」というカメラの撮像素子に使う素材に興味がありましたね。私の恩師がNHK技研の出身で、撮像デバイスの研究をしていたからです。「テルル」は原子番号52番の元素で、「アモルファス」とは規則正しい結晶性を持たないという意味ですね。「アモルファス?テルル」を撮像素子に使うと、赤の感度が増して、暗闇でも撮影できるようになるんです。この素材は非結晶なので、そのときによって配列が違うので、どういう配列になっているのかをパソコンでシミュレートして、実験のデータと照合して、調べたりしていました。
編集部: 昔から理系の分野に興味があって、研究の道に進まれたのですか?
そうですね、小さい頃からパソコンは好きでした。小学校のときにパソコンを買ってもらって、サンプルについていた長い長いプログラムを入力していたらゲームが完成したんです。それでたとえばそのプログラムの色コードを変えたりなどして遊んで、プログラムって面白いと思った記憶があります。また、数学も好きだったので、国士舘大学の工学部(現理工学部)を受験しました。そして卒論に取り組んでいた非結晶構造の3D表示が面白くて、そのまま大学院に進学したんです。また4年生のときに教育実習に母校に行ったのですが楽しくて教職もいいなと思いました。なので、修士課程のときから中学校や高校で数学、情報を教えていました。そのあと、他大学で講師を務めて、4年前に国士舘大学に戻ってきました。でも、中高の教員時代の癖が残っているのですかね。学生に指導をしていると、ときどき「先生、高校の先生みたいだね」なんて言われることがあるんですよ(笑)。
編集部: 最後になりますが、電子情報学系の学びを通して、
どのような人材を育成したいとお考えですか?
学生には「信頼できる人」になって社会で活躍して欲しいと思っております。当たり前のことですが時間や約束を守ることは大切です。電子情報学系の実験レポートの提出時間は決められた時間に提出をしないと受理されません。忘れたから今度にしようと思っていると単位が出ないことも。厳しいなと思うかもしれませんが、社会にでたら期限を守ることは当然。今のうちに身に付けてもらっています。
そして、私が担任を務めている今の4年生には入学時から、Chanceがあったら逃さず、積極的にChallengeし、よりよい自分にChangeしていきましょう、と3つのCを伝えています。電子情報学系は、幅広いカリキュラムの中から自分で興味がある科目を選択し、いろんなことにチャレンジできます。基礎科目から演習科目を通して、実学に重点を置いているので、職業に役立つ技術も身に付きます。そして教員免許をはじめ、電気主任技術者や電気工事士、特殊無線技士など、さまざまな資格の取得、筆記試験免除等も可能です。その結果、就職先も大手電気設備会社、通信会社に採用されています。よく、「高校で勉強しなかったから」といって理系を敬遠する人がいますが、それはもったいないと思います。やる気があれば、大学に入ってからの勉強で間に合うからです。国士舘大学の理工学部は教員と学生の距離が近く、アットホームな雰囲気で学ぶことができます。ぜひ、この大学で仲間をつくって、みんなと一緒に夢を追いかけましょう。私たち教員が、一人ひとりの夢をしっかりサポートしていきます。
神津 薫(KOUZU Kaoru)准教授プロフィール
●博士(工学)/国士舘大学 工学研究科博士課程修了
●専門/電子物性